先天性の弱視でありながらミュージシャン兼マジシャンの“ミューマジシャン”として活躍する岡崎市出身の佐野信幸さん(29)。県内を中心に、北海道から九州まで全国各地でパフォーマンスを披露し、多くの人に元気を届けている。(大山智也)
佐野さんは、昭和62(1987)年に生まれて間もなく弱視と診断された。近視と遠視の欠点を合わせたように細かい文字や遠くの物が見づらく、大まかな輪郭や色で人や物を判別する。また、明るさの変化に弱く、暗い場所では何も見えないため、自宅などの慣れた場所以外では他人の助けが必要だという。
小学5年生の時に町内のピアノ教室へ通い始めたのがミュージシャンとしての原点。中学までは地元の市立校に通い、高校は県立岡崎盲学校高等部に進学した。入学後しばらくして、テレビで見たクラシック演奏に魅了され「クラシックをやってみたい」と、本格的に音楽の道に進むことを決意。盲学校卒業後、東京都の筑波大学附属視覚特別支援学校音楽科でクラシックピアノを学び、岡崎に戻ってから音楽活動を始めた。
最初は楽譜の読み方が分からず、弱視のため演奏中に楽譜を見ることも難しいことから、耳を頼りに楽曲を暗記して繰り返し練習した。楽譜の読み方を覚えてからも楽譜全体を見ることができないため、練習の際は目の前まで楽譜を近付け、数小節ずつ地道に暗記。「ライブで新しい人と共演するたび、新しい曲を完璧に覚えなければならないので大変」と苦労を語る。レパートリーは約200曲。作詞作曲も手掛け、これまでに3つのアルバムを発売し、テレビドラマなどのBGMも担当した。
マジックは、中学生のころに趣味の1つとして始めた。独学で練習を重ねるうちに頭角を現し、高校3年生の時に東京都内で開かれたジャグリング全国大会のフリー部門に出場し、火の点いた棒を使ったジャグリングを披露して初優勝。これまでに街中や市民イベント、自身のライブなどでパフォーマンスを披露し、得意とするカードマジックを含め約5000種類のマジックを習得した。マジック教室も主宰している。
「昔は弱視のことを隠したい、健常者として振る舞いたいという思いがあった。しかし、視覚障害のことを知った人から『(演奏やマジックで)元気づけられた』と声を掛けてもらい、障害にこだわらず悩みのある人を元気づけたいと思うようになった」と佐野さん。1人でも多くの人に元気を届けるため、これからもステージに立ち続ける。
10月22日午後2時から、4枚目のアルバムの発売を記念して岡崎市西部地域交流センター(やはぎかん)でライブを開催する。
新作アルバムの収録曲をはじめ、過去のアルバムに収録したオリジナル曲やクラシック曲などを披露。さらにマジックショーも予定されており、充実のステージで来場者を魅了する。
入場料は1,000円(小学生以下無料)。問い合わせは、佐野さん(090―1984―3727)へ。