「三河のエジソン」として知られる、NPO法人福祉工房あいちの理事長、加藤源重さん(78)=岡崎市牧平町=が、第48回吉川英治文化賞を受賞した。同賞は、日本の文化向上に尽くした個人や団体に贈られる。加藤さんは諦めない心を武器に自助具を作り、障害者やお年寄りに21年間、光を与え続けてきた。(横田沙貴)
事故により右手の指をほとんど失った体験から、障害者が健常者と同じように仕事や生活ができるようにと、ほぼ無償で自助具開発・製作に取り組む姿が評価された。選考委員の柳田邦男さんは「障害者の真のニーズに応える発想と実現力には、ただただ感服させられる」と評した。
同賞は、推薦を受けた個人・団体のうち柳田さんら5人の選考委員の合議で選ばれた。加藤さんのほか、長野県の志賀高原漁業協同組合、三重県の挿絵画家・中一弥さんが受賞した。
加藤さんは55歳のとき、裁断機の整備中に親指のつけ根を残し利き手である右手の指を失った。
「もう一度、箸を使って好物の刺し身や豆腐を食べたい」―。この願いをかなえるため、親指の付け根の力だけで箸を使う自助具を完成させた。
全国の身体障害者や高齢者から自助具製作の依頼が多くなり、平成12年、NPO法人「福祉工房あいち」を立ち上げた。寄せられる要望は、「片手で包丁を使いたい」「車椅子で生活しているが1人でトイレに行きたい」など、生活に密着した身近な悩みが中心。
残された能力を最大限に生かす自助具を作り、これまでに開発した自助具や便利グッズは60種1000点以上。「喜んでもらえ、『ありがとう』という言葉が力の源になります」
最近は「誰でも弾ける木琴」。長さの違うアルミ筒を音階順に並べた。養護学校の子どもたちが喜び、演奏を披露してくれた。
「ハンディキャップがある人たちが自由に生活できるよう、こつこつと活動を続けてきた」。今後の目標は「後継者の育成と自助具の改良。今ある自助具がより簡単に扱えて安価で提供できるようにしたい」。