岡崎市明大寺町の自然科学研究機構基礎生物学研究所生殖細胞研究部門の吉田松生教授(47)と原健士朗助教授(34)ら共同研究チームはこのほど、哺乳類の精子幹細胞の新たな性質を発見した。
精子の元となる幹細胞「As細胞」は、細胞分裂をするとAs細胞と細胞が鎖状につながっている「合胞体」に変化する。これまでAs細胞が合胞体に変化すると、その後は細胞の連結が進んで精子に変化するのみと考えられてきた。だがAs細胞がどのように増えるのかの仕組みは明らかにされていなかった。
吉田教授らは対象の生き物を麻酔薬で眠らせ、生きたまま体内の動きを観察する「ライブイメージング」という方法を使い、マウスの精巣の動きを観察。合胞体の中には、As細胞とともに幹細胞として働くものもあり、細胞分裂や細胞同士の結合、断裂を繰り返してAs細胞単体と合胞体の状態を行き来していると分かった。
ライブイメージングはマウスへの影響を考慮し最大3日分の記録しかできない。この記録をもとに、マウスの一生涯に当たる1年間で精子がどのように生成されるかを調べるため、コンピューターを使って幹細胞の動きをランダムに仮想再現。同時に、幹細胞に特殊な印付けをして、ライブイメージング後に幹細胞がどのように変化したかを1年間追跡した。すると再現結果と追跡した細胞の変化がほぼ完全に一致。精子幹細胞はランダムに分裂・断裂を繰り返していると証明された。
さらに、特殊な薬剤を使ってわざと幹細胞の数を減らしたところ、幹細胞として機能する合胞体がAs細胞に分かれ、そこから細胞分裂と断裂を繰り返し、元の幹細胞の数まで戻った。
吉田教授は「細胞の変化がランダムで発生しても、一生涯を通して考えれば精子の生成量が安定している。柔軟な変化ができるよう、As細胞と合胞体の形状を行き来できるようになったのではないかと考えられる」と話した。
今後は精子幹細胞のゲノム解析などを行っていく。この研究が進めれば、男性不妊の原因解明や治療薬の開発などに役立つのではと期待されている。共同研究チームは吉田教授が主宰し、英ケンブリッジ大、京都大、神戸大、理化学研究所、東北大の研究者が参加。論文は、きょう2日に発売される米国の科学雑誌「セルステムセル」に掲載される。(横田沙貴)