黒い台紙にくっきりとした線でペットや肖像画―。岡崎市稲熊町の天野喜久雄さん(62)が手掛ける「糸のこクラフト」だ。糸のこで板をくり抜いて仕上げたユニークな作品は、正面は切り絵のようだが、横から見ると木の厚みが分かる“立体絵画”。「木の温かさが好き」という天野さんの作業場を訪ねた。(大津一夫)
大型トラックのボディーを製造する会社に勤めていた天野さんは、定年を前に、「木工に挑戦してみたい」と考えるようになった。
書店や図書館で調べる中で、名古屋市内で糸のこクラフトの講座を専門にする店があることを知り、平成23年夏から通うようになった。「自由に表現でき、仕上がりもきれい」。通ううちに、さらに興味が深まった。土曜日、日曜日の開講日のほか、春休み、夏休みも通い、1年で講師の資格を取得。昨年6月、自宅から約1キロ離れた場所に、コンテナを改装した工房「クラフト木空(きくう)」を設置した。
材料はブナ、ヒバ、パイン、ヒノキ、サクラなど。堅さと白っぽい色が作品に合っていると、ブナが気に入っている。
写真や図録を見ながら下絵を描く。厚さ2.5センチ前後の板に下絵をはり、糸のこで切っていく。細い線は1ミリ以下。曲線が多く、根気がいる作業だ。
「すべてがつながっていなくてはならないという制約がある。細い部分は割れやすいので細心の注意が必要」
昨年から「岡崎「第九」をうたう会」に参加。チラシに載ったベートーベン、モーツァルトの肖像画や、ペットのイヌ、「組み木」と呼ばれるパズルなどを制作。東日本大震災被災地の岩手県陸前高田市で話題になった「一本松」を題材に、行灯(あんどん)も作った。天野さんは5年前の「8月末豪雨」で、自宅1階が水没する被害に遭っており、「被災地を思って仕上げた」という。最近は輪切りにした板を積み重ねた「花器」の制作も始めた。
天野さんは「動物をテーマにした作品を続けながら、今後は明かりを取り入れた作品にも挑戦したい」と話す。