「東日本大震災が進むべき道を決めました」―。岡崎城西高校を卒業した山田あずきさん(18)=岡崎市夏山町=が、3年ぶりの女性消防士として同市消防本部に新規採用され、中消防署本署に配属された。現在は9月21日まで、県消防学校で消防士の基礎を学びながら、規律の厳しい寮生活を送っている。高校在学中に心に決めていた「進学」という進路を変えたのは“あの日”。山田さんは「命を懸けて災害に立ち向かう覚悟です。災害で傷ついた被災者の心に寄り添い、女性ならではのきめ細やかな気配りで少しでも安心感を与えたい」と、固い決意を目の奥に宿す。(今井亮)
「映画やドラマにしかないような光景を現実として受け止め切れませんでした」。昨年3月11日の震災当時、同高2年生だった山田さん。3年生への進級を目前に控えた矢先に受けた、あまりにも大きかった震災の衝撃を、そう振り返る。
高校では、生徒会長として義援金や支援物資を集めて被災地に送り、7月に有志の同級生らが被災地へのボランティア活動に赴いた。しかし山田さんは、遠方だったことなどからボランティアの参加を断念。「非力な高校生には義援金や物資を集めるぐらいしかできない」と無力感に打ちひしがれた。
「もっと出来ることはないのだろうか」。そんな時、目に飛び込んできたのは歯がゆさを代弁するかのように、被災地へ向かう消防士の姿だった。
父親は警察官。「命を懸けてでも」という職務に対する使命感に、「それほどやりがいのある仕事なんだ」と憧れた。“命に携わる職業”として興味を抱いた、救命医療の専門学校への進学を目指していた。
震災を境に変わった夢。「消防士になる」。胸中を打ち明けられた両親は「やりたいことをやりなさい」と温かかった。採用試験まで半年を切っており、最初は「タイミングを待った方が」と引き止めた教師も、最後は背中を押してくれた。
急きょ始まった受験勉強。ところが試験まであと2週間と迫ったある日、足の指の骨にひびが入るけがを負ってしまった。試験内容は学科、実技(基礎体力テスト)、面接。実技では痛みに耐えながらランニングや垂直飛びなどに臨んだが、合否に期待はなかった。それだけに「『合格』にはびっくりの一言でした」。
消防学校で送る日々の目標は「男性に負けない体力づくり」と「弱い自分に負けないこと」。資機材の持ち上げなどで男性に劣る体力に、思わず「情けない」とこぼすが「『女性だからだめだった』とは言われたくありません」と負けん気の強さを垣間見せる。
卒業後は火災や風水害など、さまざまな災害現場に駆け付ける「最前線」が待っている。しかしその過酷さを跳ね返すように、「同性にしか気付けない女性被災者の悩みにも目を配ることができる、そんな存在になりたいです」と目を輝かせる。
今年度、岡崎市消防本部に新規採用された消防士は19人で、山田さんは唯一の女性。同市消防本部では平成21年4月以来、通算8人目の女性消防士となる。昨年4月、県内では111人、全国では3800人の女性消防士が誕生した。