愛着のある建物はそのまま移動―。岡崎市福岡町で5日、昭和元(1926)年に建てられた木造茶室を原形のまま移動する曳(ひ)き家工事が行われた。NPO法人アースワーカーエナジー(小原淳代表)が主催する「健康なまちづくりセミナー」の一環。関係者ら約50人が建物の水平移動を見守った。(竹内雅紀)
茶室「恣寂庵」は木造平屋建て約100平方メートル。付近を流れる砂川の河川改修工事に伴い、撤去が避けられない状態だった。持ち主の成瀬英一さん(64)は「先々代から続く茶室には愛着がある」として、取り壊さずに敷地内の庭に移す方法を模索していた。インターネットなどで検索するうちに曳き家工事の存在を知り、市内の工務店に依頼した。曳き家工事は、東日本大震災で液状化した地域の住宅の復旧でも活用されているという。
成瀬さん宅に併設していた茶室は6月下旬に切り離された。約80トンの茶室をジャッキで持ち上げ、補強鋼材を挟んでレールの上に乗せ、ワイヤでゆっくりと引っ張る。この日は、約9メートルを30分間かけて移動し、基礎の上に到達した。“新天地”は元の位置から南東へ約50メートル。
成瀬さんは「今は何でも新しいものを取り入れたがるが、古いものを手入れして長持ちさせるのも1つの手段。庭を眺めながらゆっくりとお茶が飲めそうだね」と思い入れのある茶室に目を向けて語った。
小原代表は「今回は『建築は文化』がテーマ。住む人の視点に立ち、建築とは何かを考えるいい機会になったのではないか。建築家の創造力が広がることを期待したい」と話していた。