岡崎市稲熊町でガラ紡製品「本気布(まじぎれ)」の企画・製造・販売会社を経営する稲垣光威さん(47)が、三河木綿の発祥地・岡崎に木綿産業を復活させようと計画している。名付けて「岡崎綿(メン)フィス化計画」。今年から自宅の庭で三河在来種の綿の栽培を始めた。この種子を増やして離農した人たちに本格的な栽培を呼びかけ、木綿の「地産地消」を―という夢のある計画だ。
「綿フィス化計画」の名は、稲垣さんがファンだった歌手の忌野清志郎さん(今年5月死去)のアルバム「メンフィス」から取った。また、忌野さんが米国で別のアルバムを制作した都市がテネシー州メンフィスで、メンフィスは綿花の一大集散地でもある。ネーミングには、岡崎を再び綿のまちに―という思いを込めた。
「かつての岡崎は国内有数の綿花の産地でした。生産農家だった人たちに過去の記憶を呼び覚ましてもらい、三河在来種の綿花生産ができるようになれば」と、計画の骨子を語る稲垣さん。
実家は紡績工場を営んでいたが、10年前に閉鎖。その直後、勤めていた一宮市の繊維会社を退職して独立、自宅に衣料品の外注加工会社「ファナビス」を立ち上げた。
会社経営のかたわら稲垣さんは「綿について知ってもらいたい」と4年前、おかざき自然体験の森で市民と一緒に綿を育てる活動をスタートさせた。3年前には「本気布」のブランドでガラ紡製のバッグや帽子などを世に出している。
自然体験の森の活動を広げるために「市民に綿の種子を配ろう」と発案。昨年から同市真伝町の畑で約500本の綿を栽培。収穫した種子をビニール袋に入れ、今春1300人に配った。
袋に添えた紙片には、綿の写真や種子のまき方のほか、「秋のイベントに綿を持ってきて下さい」と案内メモを印刷。綿フィス化計画の“種”をまいた。
まいた種から“花”を咲かせるのは、今年11月7,8の両日に行うイベント。岡崎の中心街で開かれる市民まつりと岡崎ジャズストリートに合わせ、会場は籠田公園とその周辺にした。「実った綿を持ち寄って糸紡ぎの体験をしてもらい、ステージではガラ紡製品のショーを予定しています」と稲垣さん。にぎわいの中で、綿フィス化計画のステップにしたいと言う。
三河在来種の種子は大手製薬会社が保存しているものを、知人を通じて分けてもらった。「この秋に種子を採り、販売したい。綿花生産が軌道に乗れば、この地方には紡織機が多くあるので木綿産業の復活は可能だと思います」。採算性を含め、これを実現できれば、綿フィス化計画の“実”を収穫することになる。