田畑を荒らすイノシシの“捕獲名人”たちが岡崎市の山里で活動している。そのうちの1グループが蓬生町の大久保基さん(63)と梅本鋼治さん(66)、大久保徳熊さん(82)の3人。仕掛けておいたオリやワナを毎日見て回るが、イノシシは学習しているようで、名人との根比べ知恵比べが続いている。
「こんなに田んぼが荒れとる。餌にするミミズを探しまくって掘り返した」と大久保基さん。「ほれ、これが足跡だよ」と梅本さん。幅3メートルほどの道のすぐ脇。見回すと、あっちにもこっちにも。人目につかない日暮れから夜間の仕業らしい。
食害は春先から。タケノコをほじり出し、エンドウマメ、そして稲穂、サツマイモ、カキやクリ…。ここへシカが加わる。
食害がひどくなったのは10年以上も前からだが、原因はさまざま。山林は間伐されず、落葉樹が減って餌のドングリが少なくなった。「昔はキツネがウリ坊(イノシシの子ども)を捕っていたが、その天敵のキツネがいなくなったことも影響しているでしょう」
大久保基さんらは見かねて平成18年5月から捕獲を始めた。その年はイノシシ18頭とシカ3頭、昨年はイノシシ10頭、シカ1頭。今年はオリを5カ所、ワナを30カ所と昨年より多く仕掛け、26日までにイノシシ36頭とシカ17頭を仕留めた。
オリは幅、奥行き、高さとも約2メートル。建築用の鉄筋を組み合わせ、好物の米ヌカをまいてイノシシを誘い込む。「ウリ坊がオリに入ってヌカを食べているのに、親は外から用心深く観察しているのを見たことがあります。賢くなった」。以前、試しにポテトチップスを置いたが、ほかの動物に食べられた。
捕獲は1人では危険だ。ワナを外そうと命懸けで暴れ、自分の脚を引きちぎってまで逃げるイノシシやシカもいる。だから数人で行動することになる。
岡崎市内の捕獲数は年間、イノシシが600頭前後、シカが300頭から400頭の間で推移している。捕獲できるのは4月初めから10月末までの個体数調整期間と、11月15日から2月15日までの狩猟期間。ワナ猟ができる狩猟期は県の狩猟者登録証が必要で、大久保基さんが持っている。
さて、イノシシの肉の味は?「臭みがあるだろうと言う人が多いが、クセが全然なく柔らかいですよ」と2人は口をそろえる。脂がのる11月から1月までがおいしい。シシ鍋、焼き肉、煮付けはもちろん、しゃぶしゃぶも。「料理店では牛肉並みの値段です」。かくてシシは死して高級精肉を残す―。