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東海愛知新聞

身近にあった「死」

岡崎出身・飯島さんが北極圏600キロ踏破

岡崎市出身の飯島啓方さん(24)=碧南市=が今年5月5日、北海道の冒険家、荻田泰永さんや全国から参加した19〜27歳の男女11人と共に、29日間をかけて北極圏約600キロを踏破した。「ただ未知の世界が知りたい」。小学生のころから抱き続けてきた好奇心は、青年になるに従って世界へと足を向けさせ、ついには北極圏の冒険に駆り立てるほど膨らんだ。()

岡崎市根石小学校、甲山中学校、県立岡崎東高校を経て日本大学国際関係学部に進学した。3年の時にフィリピンに語学留学し、4年になった翌年に再び渡航。国々に息づく生活に身を置きながら、卒業までに37、8カ国を回った。

北極圏への挑戦を視野に山口県にある内航海運会社に就職し、操船作業に従事。目標資金150万円を貯蓄し、「覚悟」を示すために退職した上で、「若者と一緒に北極圏を目指す」と公言していた荻田さんに参加を直談判した。

今年3月25日に日本を出国。カナダの首都オタワとトロントを経由し、イカルイトで寒冷地トレーニングに励んだ。チャーター機で向かったパングニタングを徒歩で出発したのは4月7日だった。

ホワイトアウトや強風など2、3時間置きに変化する天候。荻田さんを含む13人は、「方向感覚が狂う」ほど目印になるものが何もない景色に囲まれた中、太陽の位置を頼りに一人一人が食料やテントなどを積み込んだ平均80キロのそりをけん引。海中に落下する危険性のある薄氷を踏んでしまったり、ホッキョクグマに襲われたりする不安や恐怖、緊張感が常にまとわりついた。

「5000キロカロリー」を消費するという1日の徒歩を終え、本来ならば一息つけるはずの野営の鉄則は「熟睡するな」。日没後の気温は氷点下30度。テントの外から聞こえる「バリバリ」と氷が割れる音やテント内からは分からないホッキョクグマとの距離感におびえた。「旅にリスクはつきもの。これまでの旅はできる限りリスクを軽減する備えをしてきたからこそ、不安や恐怖を越えて楽しむことができた。しかし北極圏は恐怖心が好奇心を初めて上回った。どこか人ごとだった『死』を身近に感じた」。

目的地のクライドリバーに到達してまず実感したのは「喜び」よりも、「生きている」こと。故障につながる装備への妥協など、わずかな油断が命にかかわることも身をもって学んだ。それでも来年3月、今回の冒険で絆を深めた仲間2人と、再び北極圏を目指すという。

「魚を捕りにくるホッキョクグマやアザラシがひなたぼっこをする自然の雄大さ、ビルよりも大きな氷河から崩れた氷を飲み物に入れた時に聞こえる何千、何万年前の空気が『パチパチ』と弾ける音は何物にも代えがたい」と飯島さん。「今はインターネットで世界のことが分かるが、『知識で知る』ことと『行って知る』ことはまるで異なる。挑戦への渇望は自らのアイデンティティー」と目を輝かせた。

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