東海愛知新聞バックナンバー

 3月31日【水】

毎朝ホームレスに雑炊

松樹寺住職・伊藤さん
1年3ヵ月休まず届ける

名鉄東岡崎駅とJR岡崎駅のホームレスに毎朝、手作りの雑炊を届けている人がいる。岡崎市夏山町、松樹寺住職・伊藤三栄さん(64)。野菜をたっぷり入れた雑炊を温め、鍋や食器を載せた車で駆け付ける。平成20年12月5日から、「待っている人がいる」と、休まず続けている。(大津一夫)

「待っている人がいる」

伊藤さんは岐阜県郡上市の生まれ。東京の大学に入学して上京。下宿しながら新聞配達のアルバイトを続けた。

画家志望だった伊藤さんは、大学を中退して絵を勉強。夢中になったが、プロになることは断念。岡崎の石材店に就職した。23歳のときだった。

さまざまな体験の中で仏教に興味を持ち、40歳代になって得度。修行のあと松樹寺に移り、平成10年から住職を務めている。

ホームレスの人たちに朝食を届けるようになったのは、知人から現状を聞き駅に出掛けたのがきっかけ。菜食主義の伊藤さんは、玄米と野菜だけの雑炊を作り、ホームレスの人たちに届けるようになった。

松樹寺から東岡崎駅までは約20キロ。雨の日も風の日も続け、休んだのはこれまで、所用で青森に出かけた1日だけ。

伊藤さんの善意を知って、野菜や米を持参する人もいる。中にはキリスト教徒も。

伊藤さんはホームレスを「ニューファミリー」と呼ぶ。食事を届けるうちに親しくなり、相談に応じたり生活保護などの手続きを手伝ったりすることもある。「仕事を見つけて立ち直ってくれた人もいます」

「ホームレスを甘やかせているでは、と言われるのも承知しています。でも恵まれない環境で育った人も少なくない。『おいしい』と笑顔で言ってくれるのがうれしい」と話す。

28日、松樹寺を訪れた。

■午前3時

午前3時、台所に明かりがともる。ガスコンロとストーブに大きな鍋を乗せ、調理が始まる。「新聞配達を長年してきたせいか、早起きは苦にならない。今でも朝日を見ると感動します」

前日の昼間、妻の文子さん(48)が準備した料理を温め、新鮮野菜を追加して煮込む。

ニンジン、切り干し大根などが入った鍋から湯気が立ち始めると、おから、高野豆腐、ワカメ、トウガラシ、ネギなどを手際よく入れる。この日のデザートはリンゴだ。

■捨てない!

4時20分、約20人分の雑炊と食器を車に積み込み松樹寺を出発。東岡崎駅に到着すると集まってきた人たちに声をかけながら、どんぶりを配る。「食べ物は捨てない」と最後は鍋にお茶を入れて飲んでもらう。

食べ終わるころ、白々と夜が明けてきた。


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