ドラマ「ディロン〜運命の犬」
愛と絆に結ばれて
岡崎 太田さんと愛犬がモデル
NHKテレビ 20日スタート
その犬は2年前から目が見えない。ゴールデンレトリバー「ディロン」、雄の14歳―。岡崎市北野町、ピアノ教師・太田惠里さん(52)と愛犬をモデルにしたNHKテレビ土曜ドラマ「ディロン〜運命の犬」が、20日午後9時にスタートする。人と犬との心の交流を描く5週連続の1時間ドラマだ。
3匹の犬を室内で飼うため、動物施設の「しつけ教室」に通っていた太田さんは、そこでしなやかに歩くディロンに見ほれた。しかしその後、動物施設の犬舎でうずくまるディロンに会う。「元気にしてやりたい」。何度もの折衝を経て、引き取ることができた。
ディロンが太田家に来たのは12年前、平成6年の夏。当時2歳だった。やつれ、長い棒状の物におびえ、「ダメッ」という言葉に敏感だった。太田さんにとって犬たちは家族。以前のディロンの境遇は容易に察しがつく。
「穏やかで人好き」なディロンは、人の心を読み取る賢い犬だった。2歳は成犬。やがて、家にいた「アリス」との間に9匹の子をもうけた。
■老人が涙した
翌7年11月9日。西尾市内の老人保健施設に勤務する知人から「犬たちと一緒に来ない?」と誘いを受けた。ディロンとアリスを連れていった。2匹はお年寄りの前に立ち止まり、また歩く。太田さんが「人生を変えてくれた」犬との、動物介在活動の始まりだった。
13年、岡崎市内の病院でのこと。戦時中、軍用犬の訓練を行い、何匹も戦地に送り出したという老人がいた。任務とはいえ、心に傷が残った。「あれ以降、犬は飼えなかった」。ディロンは老人の前で止まり、膝に脚をのせた。その傷を察知したかのようなディロンに老人は涙した。
■本をドラマ化
NHKからドラマ化の話があったのは今年3月初め。「テレビにまで」と太田さんは驚いたが、ディロンはすでに本になって紹介されていた。
まず16年7月、『人の心がわかる犬〜セラピー犬ディロン』(井上こみち、幻冬社)。さらに今年、『どうぶつといっしょ!7 ささえる』(学研)、絵本『ディロン ずっとそばにいるよ』(中村悦子、教育画劇)。
ドラマの原案は『人の心がわかる犬――』。このほどドラマと同名に改題し、幻冬社から文庫本として発刊された。
ロケは3月末、東京で始まり、4月中旬からスタジオ収録が行われた。太田さんはディロンと一緒に上京、北海道から来たディロン役の3歳のゴールデンレトリバーや、太田さんに扮ふんする樋口可南子さんに会った。
「小型犬のジャック・ラッセル・テリアを飼っている樋口さんが、ディロンを抱き上げてくれました。体重30キロのディロンは、さぞ重かったでしょう」
アリスは2年前に生涯を終えた。相前後してディロンの目が白濁していった。網膜硬化症だという。人間なら100歳を超える。ディロンは鼻と耳ですべてを理解し、子どもの「オスカー」(雄)と「パティ」(雌)、太田さん夫妻、娘さんに囲まれて暮らす。
■多忙の中の幸せ
太田さんは8年前、渡米して「活動動物適正審査員」の資格を取り、翌年、成犬の里親探しや訪問などをするボランティアグループを結成した。犬を知ることと犬を愛することは、似ていても同義ではない。犬を愛することには責任が伴う。
太田さんは愛知県災害救助犬協会(岡崎市)、全国介助犬協会(東京都)の会員で、優良家庭犬普及協会(同)の理事。獣医師なしで施設を訪問できる日本動物病院福祉協会認定パートナーズとなり、豊田市保健所のしつけ教室講師も務める。
引退したディロンの後を受け、オスカーと市内の病院や西尾の老健施設を訪問するなど多忙だがディロン親子との深い愛と絆に結ばれて幸せそうだ。
▼ドラマのあらすじ 平凡な主婦が捨て犬と出会い、老人ホームや子どもたちへの訪問、捨て犬の里親探しを始めた。やがて夫婦の間や、避けていた義母との関係にも変化をもたらしていく。