鹿革工芸品を600点
岡崎の江戸期古民家 石原邸で甲州印伝展
インド伝来 江戸の粋
岡崎市六供町杉本の〈江戸期古民家 石原邸〉で「甲州印伝展」が開かれている。印伝は江戸期から伝わる鹿革の工芸品。障子、板戸、畳と板張りの床、囲炉裏のある建物。江戸の粋と古民家が相まって、座り込んでゆっくり眺めていたい雰囲気だ。
印伝の名は「印度(インド)伝来」がもとになったといわれる。江戸初期、寛永年間(1624〜1644)の渡来人から、インドの装飾革が幕府に上納された際、名付けられたとされる。
その技法は匠の業。革を黒や紺、茶色、エンジ色などに染める。文様を切り抜いた型紙を当て、漆を刷り込むように塗って乾燥させ、裁断し縫い合わせて仕上げる。
出品したのは天正10(1582)年創業の老舗、山梨県甲府市の「印傳屋」。手提げ袋やハンドバッグ、小銭入れ、名刺入れなど約600点が並ぶ。手触りがソフトで、使いなじむうちに味わい深い色になるという。
珍しいのは、「燻(ふす)べ」という技法の手提げ袋「合切袋(がっさいぶくろ)」と、江戸期の小銭入れを現代風にアレンジした「三巻(みつまき)」。何度も藁(わら)を焚(た)いて革を燻(いぶ)したあと、さらに松ヤニで燻す。手間と高度な技術を要する技法で、これらは特注品。
展示は今月31日まで、午前11時〜午後5時。場所は岡崎市民会館南の信号交差点を東へ約120メートル行った右側。問い合わせは石原邸(0564―24―0546)へ。
戦前は炭の卸商だったという。母屋のほか、店員の住居だった明治時代の建物も残っている。終戦前の東南海地震、三河地震にも耐えた。
30年ほど前、住んでいた人が亡くなり、ガラス戸を取り払い、煮炊きの竈くどや井戸、囲炉裏などを復元、江戸期の住まいを再現させた。
昭和50年代半ば、小料理店を開いたがやがて閉店。その後、イベント会場として時々使った以外は閉めていた。
風を通さないと建物の傷みが早いため、昨年6月から定期的に展示会などを開催している。
苔こけむした庭に生えたキノコ。時を経た建物に身を置いて味わう抹茶とコーヒー(各500円)。時折通るクルマの音を除けば、ここは江戸時代。この“文化財”は個人所有で、平成3年度の岡崎市都市景観環境賞を受賞した。